結論:「辞退するなら研修費を返して」は、そのまま受け入れなくていい
内定辞退を伝えたところ、「これまでの内定者研修にかかった費用を請求する」「辞退するなら研修費として〇万円を払ってもらう」と言われた、という相談は少なくありません。お金の話を出されると、それだけで辞退をためらってしまいますよね。
まず押さえておきたいのは、労働基準法第16条が、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ決めておく契約を禁じている、という点です。「辞退したら〇万円」という取り決めは、この条文との関係で問題になり得ます。その場で支払いを約束したり、書類にサインしたりせず、いったん持ち帰って確認するのがおすすめです。
労働基準法第16条は何を禁じているのか
e-Gov法令検索で確認できる第16条の条文は、次のとおりです。
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
和歌山労働局の解説では、禁じられている内容として、途中で退職したら罰金を払う、といった違約金の定めや、会社に損害を与えたときの賠償額をあらかじめ決めておくことが挙げられています。また、同法第119条では、第16条に違反した者は六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処するとされています。
つまり、「辞めたらいくら」と先に金額を決めて縛ることは、法律が強く警戒している形だといえます。
内定者にもこの条文は関係するのか
「まだ入社していないから労働基準法は関係ないのでは」と感じる人もいるかもしれません。厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署のリーフレットでは、採用内定によって労働契約が成立していると解された最高裁判決(昭和54年7月20日、昭和55年5月30日)が紹介されています。
同じリーフレットでは、他社への応募を辞退し、入社誓約書を提出し、近況報告をしていた事例では労働契約が成立したと判断され、反対に、入社に向けた手続きも誓約もなかった事例では成立していないと判断された、と整理されています。内定の段階で労働契約が成立しているかどうかは個別の事情によりますが、成立していると考えられるケースでは、第16条の考え方が問題になり得ます。
言われがちなパターンと考え方
「誓約書に辞退時は研修費を返すと書いてある」
内定時の書類に、辞退したら一定額を支払うと書かれていることがあります。書面にサインしていても、その内容が違約金や賠償額の予定にあたるなら、第16条との関係で有効性が問われる可能性があります。サインしたから必ず払わなければならない、と決めつける必要はありません。
「実際にかかった費用だから請求する」
和歌山労働局は、あらかじめ金額を決めておくことは禁止されているものの、現実に労働者の責任により発生した損害について賠償を請求することまでを禁じたものではない、と説明しています。そのため、どんな請求も一律に無効、とまではいえません。ただ、内定者研修は企業が採用活動の一環として行うことも多く、その費用が本当に辞退者の責任で生じた損害といえるのかは、慎重に考える余地があります。
請求されたときの進め方
- その場で支払いの約束や、新たな書類へのサインをしない
- 誰から、いつ、どんな名目で、いくら請求されたかを記録する。メールやメッセージは保存しておく
- 内定時に受け取った誓約書や承諾書、研修の案内を手元にそろえる
- 大学のキャリアセンターに相談し、企業とのやり取りを一緒に考えてもらう
- 金額が大きい、強い口調で支払いを迫られるといった場合は、労働基準法を所管する労働基準監督署や、弁護士などの専門家への相談も検討する
辞退の意思と、お金の請求は分けて考えて大丈夫です。支払いの話が出たからといって、入社を決め直す必要はありません。落ち着いて資料をそろえ、第三者の目を入れながら対応していきましょう。